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調査研究ノート№8(博物館だより№36より)

放射壊変を利用した年代測定法の原理について


 博物館には様々な資料があります。 これらの資料はいつの時代のものかを調査する必要があります。 例えば古文書には資料自身に年代が書き込まれていたり、 美術作品はその作者から年代を推定することができます。 ところが、岩石等の大変古い資料は、年代を決定するには、 資料を科学的に分析する必要があります。
 そこで今回は岩石の生成された時代(年代)を科学的に決定するため、 放射性元素(核種)の時間変化を利用した年代測定法の原理について紹介します。
 さて放射性元素の崩壊は、周囲の温度・圧力に依存せず、 単位時間以内に親元素のある決まった割合が崩壊して娘元素に変化します。
 ここである親元素の個数をPとおき、 単位時間内におこる崩壊の割合(崩壊定数)をλとします。
 このときdt時間内での変化量は次式によって表せます。
式1
 ここで娘元素を安定同位体とし、放射壊変で生じた娘元素の個数をD、 t=0の時の娘元素の個数をD0で表すと娘元素全体の時間変化は
式2
が得られます。
 P、Dは現在の量であるので測定可能です。
 ここでP、Dは測定可能ですが、 その絶対量を測定するよりも同位体比を測定する方が精度がよいので、 放射壊変には直接関与しない娘元素の安定同位体Dsとの比を測定します。 そこで(5)を安定同位体Dsで割ると
式3
となります。
 (6)は放射性元素の親元素と娘元素の比を利用する年代測定に関する基本的な式です。
 さてこの原理に基づいた年代測定法の代表的な方法には、 Rb-Sr法(ルビジウム-ストロンチウム法)と Sm-Nd法(サマリウム-ネオジム法)がありますが、 ここでは、1,000万年前より古い年代の岩石の年代測定に多く用いられるRb-Sr法について 説明します。
 87Rbは、長石や雲母等のK(カリウム)を含む鉱物に含まれていて、 β-壊変(原子番号は1増加し、質量数は変化しない放射壊変)により87Srになります。 また、87Srは安定同位体として存在していることから、(6)にあてはめると
式4 (ここで、(87Sr/86Sr)0は、t=0における初生比)
 (7)より87Sr/86Srと87Rb/87Srは、試料についての測定から求められます。 未知数は(87Sr/86Sr)0とtですから、 同一閉鎖系の複数の試料を測定すれば連立方程式から、 年代と初生比が求まります。
 実際には、縦軸に87Sr/86Sr、横軸に87Rb/87Srをとり、 同一岩体中の異なる場所から得た試料についての測定値をプロットし、 得られた直線の傾きから、年代を求めます。
 この方法はアイソクロン法といい、得られた直線を 等時線アイソクロン、isochron)といいます。 そしてアイソクロン法には、全岩アイソクロン法と鉱物アイソクロン法があります。
 またこの直線と縦軸の交点が、資料の岩石の生成時の(87Sr/86Sr)0の値であり、 初生比(initial ratio)といいます。 特にRb-Sr法では、Sr同位体初生値(SrⅠ値)といいます。
式5
と年代tを求めることができます。
 以上のような計算は、実際にはコンピューターが行ってくれるので、 質量分析計によって得られた測定値を入力すれば、年代tを求めることができます。

参考文献
兼岡一郎(1998):年代測定概論.東京大学出版会.
杉村新・中村保夫・井田喜明 編(1988):図説地球科学.岩波書店.
河野長(1986):地球科学入門.岩波書店.
鳥海光弘・河村雄行・大野一郎・赤荻正樹・川嵜智佑・清水洋(1996):岩波講座 地球惑星科学5 地球惑星物質科学.岩波書店.
周藤賢治・牛来正夫(1997):地核・マントル構成物質.共立出版.
松尾禎士(1989):地球化学.講談社サイエンティフィク.
富永健・佐野博敏(1983):放射化学概論.東京大学出版会.
今村峯雄(1991):年代をはかる.日本規格協会.

(主事:杉山 満利)

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