調査研究ノート№9(博物館だより№37より)
地域素材の学習材化の周辺(2)シラス漁
富士市には、およそ10㎞にわたる海岸線があります。浜辺に生活する人たちにとって、海は時に災害をもたらす荒々しい姿を見せる一方で、豊かな産物の恩恵をもたらしてきました。
今回は、工業化が進み、漁業人口の減少する中昔から続いているシラス漁についてとりあげます。
◎昔はマグロやカツオも
田子の浦港開港以前、古くから「逆さ富士」の名所として知られていたこの地域では、漁業に携わる人たちも少なくありませんでした。
かつては、奥駿河湾でも近海のマグロやカツオ漁が盛んでした。明治時代、市内の沿岸では、マグロやカツオ、シラス、サメ、アジなど、たくさんの種類の魚が獲られていました。この頃から、シラスは地域の特産的なものであったようです。シラスはイワシ類の稚魚のことですが、富士川や安倍川、大井川などがそそぎこむ駿河湾は、魚類の餌になる大量のプランクトンが発生することから、有数の漁場となってきたのです
△元吉原地区で使用されたシラス船
*歴史民俗資料館にシラス漁関連の展示があります
◎シラス漁の現在
シラス漁は、春漁と秋漁の年2回のシ-ズンで行われています。最近では、年間平均150トンほどの水揚げがあります。これは、地元の総漁獲量の約90%にあたり、シラス漁はまさに市内の看板漁業となっています。
現在、田子の浦漁業組合では27隻のシラス船を保有しており、平成11年度には、6,634万円の水揚げ金額を記録しました。獲れたシラスは地元を中心に消費されています。
◎学習材としての視点
地域の漁業の特産品であるシラス漁については、次のような視点での学習の取り組み・展開が考えられます。
- <シラス漁の方法>
- 学区にシラス漁に携わる方がいる場合には、直接お話をうかがうのがよいでしょう。できれば、動力・機械化されたシラス船を見学したいものです。独特な漁具や漁箱などに気づくことでしょう。
地域的にみると、シラス漁(シラスアミ)は清水市以東では一艘曳き、静岡市以西では二艘曳きという漁法形態の違いが見られます。この違いを探っていくと、漁場や海流、資源量、各漁業組合のシラス漁についての歴史的背景・方針などがうかびあがってくることでしょう。
△目の細かなシラスかご
- <シラスの加工・流通>
- シラスは、ことに鮮度がたいせつだといわれます。生で食べる他に、釜揚げやちりめん干しなどに加工されます。いわゆるシラス屋さんで、入荷から加工・出荷の様子を取材してみるのもよいでしょう。また、シラスの販売されているところを調査してみると、魚専門店で生シラスを扱っていたり、ス-パ-マ-ケットで大井川方面産のシラスを売ったりしていることに気づくことでしょう。
最近では、新幹線の新富士駅の売店にもならんでいたり、学校給食の郷土食メニュ-に登場したりします。これらの事実を追求することで、シラスの販売・消費の傾向、県内各地の水揚げ量、冷凍保存技術などが明らかになってきます。
海の自然が豊かだった頃、市内の海岸に漂着した鯨を小学生が見学したり、獲れたサメ皮で鉛筆をけずったりしたというエピソ-ドがあります。
このような話にも着目すると、シラス漁にとどまらず、環境学習にも発展していくことでしょう。
(指導主事:内田 昌宏)