▲カグラの獅子頭
第一展示室に展示されている獅子頭は、
昭和10年代まで富士岡上地区のカグラで演者がかぶっていたものです
(博物館では寄託(=あずかり)として展示)。
富士岡上では氏神である寒竹浅間神社のオヒマチの10月16日に
カグラが披露されてきました。
現在富士市内には鵜無ケ渕と富士岡上(入町、1~3丁目の4区)に
カグラが伝えられていますが、後者は戦争により一時行なわれなくなり、
昭和50年ころ古老の記憶と鵜無ケ渕のカグラを参考に復活されました。
獅子頭をかぶり、1人あるいは2人立ちで舞うこの民俗芸能を
両地域ともカグラと呼んでいますが、
その動きや内容から判断すると神楽というより獅子舞だということができます。
静岡県東部では御殿場地方を中心に獅子頭をかぶる民俗芸能が数多く見られ、
そのなかには御殿場市沼田の湯立神楽など獅子が行なう神楽も知られています。
途切れることなくカグラが伝えられている鵜無ケ渕では、
「下がり葉の舞」、「幣の舞」、「剣の舞」、「狂いの舞」の
4つの演目があります。とくに「剣の舞」は
アクマッパライ(魔をはらう)になるといわれ、
かつては不幸や病の続く家がカグラを招いて「剣の舞」を舞ってもらうことがあったなど、
神聖視された演目であることがうかがえます。
鵜無ケ渕では観音堂の祭日である7月18日、
氏神である神明宮のオヒマチの10月16日にカグラが披露されてきました。
その翌日の17日には南接する間門集落でオヒマチのザシキハライがあり、
例年そこへ招かれて舞うことになっています。
その由来として
「昔、鵜無ケ渕からカグラ(この場合獅子頭をさす。)が台風で流れていき、
それを間門の人が拾ってくれた。そのお礼として舞うのだ。」、
「カグラはもとは間門のオヒマチで舞われていたからだ。
火事か何かで獅子頭が鵜無ケ渕に手渡された。」などと言い伝えられています。
鵜無ケ渕から赤渕川沿いに下ると間門の集落があり、
さらにその下流に富士岡が位置していることから見て、
このような獅子頭の移動に関わる言い伝えが、
赤渕川沿いにカグラが伝えられたことを物語っているのではないかと考えられます。